今回の『インタビュー企画』にご登場いただくのは、国内最大級の不動産ポータルサイト「LIFULL HOME'S」で知られる株式会社LIFULLで、デジタルマーケティングを牽引されている遠藤 夏海さん。5名の少数精鋭メンバーを率い、質の高いインハウスマーケティングを実現されています。インハウスだからこそ欠かせない効果的な働き方や社内コミュニケーションのとり方、そして今注目のCDPの活用法などについてお話しいただきました。
遠藤 夏海さん
株式会社LIFULL
LIFULL HOME'S事業本部 マーケティング部
コンシューマーマーケティングユニット
デジタルマーケティンググループ グループ長
Web広告の大手代理店に新卒入社してアカウントプランナーを経験したのち、デジタル動画に特化した広告代理店に転職。アカウントプランニングと動画広告運用を経験する。その後、サプリメント等を取り扱う通販企業でインハウスマーケターとして活躍。2022年5月にLIFULLに入社し、現在はLIFULL HOME'S事業本部のデジタルマーケティングをグループ長として牽引している。
社内のコア業務比率を高め、効率的なインハウスマーケティングを実現
――御社ではインハウスでデジタルマーケティングを運用されていると伺っています。どのような体制をとられていますか?
私たちのチームは、LIFULLの中でも住宅に関するサービスを行っている「LIFULL HOME'S事業本部」に属しています。マーケティング部には、テレビCMや書籍などさまざまな媒体を扱うグループがありますが、中でもデジタルマーケティングに特化しているのが私たちのグループという位置づけです。現在は、グループ長である私を含めて6名のチームで活動しています。LIFULL HOME'S事業本部には賃貸や売買、注文住宅など、住まいの形ごとに事業分野があるのですが、だいたい一事業に1、2名のメンバーがつき、各事業の目標に向けてマーケティングを推進しています。
――少数精鋭でマーケティングを実施するにあたって、どのようなことを意識されていますか。
「LIFULL HOME'S」の集客を担うデジタルマーケティンググループは社の中でも取り扱う予算が大きく、責任の大きな役割となっています。グループ長である私ひとりですべての予算管理を担うのはリスクがあるので、グループ長とメンバーの間にも2名の「統括」というリーダーポジションを設けています。統括と一緒に予算のダブルチェックを行うことでリスク分散を図ったり、統括と各メンバーで施策の壁打ちを行うことで推進力を上げたりと、成果最大化に向けてチームをうまく機能させるよう努めています。
――マーケティングの内製と外部委託の線引きは、どのように行われているのでしょうか。
現在は業務全体の8割ぐらいを自社で手掛けています。残りの2割にあたる外部委託は、グループ内で人員数が足りなくなった際の調整を目的に利用しています。また、弊グループとして「社内マーケターのコア業務比率を高める」という考え方があり、成果最大化を目的とした施策の立案、仮説構築、ディレクションといったコア業務に集中できる環境づくりに注力しており、それ以外のノンコア業務はなるべく外部で進めるようにしていますね。
別グループや他部署との連携がインハウスの鍵
――デジタルマーケティンググループを含むいくつかのグループで成り立っているマーケティング部ですが、マーケティング部内での連携はどのように行われているのでしょうか。
デジタルマーケティンググループは、マーケティング部の中でもtoCマーケティングを推進する「コンシューマーマーケティングユニット」の配下にあります。テレビCMなどの認知活動を中心としたグループ。書籍やオウンドメディアの運営を行っているグループ。そして私たちデジタルマーケティンググループという構成です。生活者へのタッチポイントを有する全グループが横並びにある為、グループ長同士で互いに情報をキャッチアップしながら、施策を点ではなく線で繋げ、効果を最大にしていくように心がけています。こういった動きが出来るのもマーケティングを内製化している強みだなと改めて感じます。
――グループ間で連携をしていく上で直面した課題があれば教えてください。
グループごとに異なるミッションを持ち、やるべきことを絞って推進力を上げている反面、マーケティングとして面で捉えた際に抜け漏れてしまう観点もあるという課題がありました。これを乗り越えるためには、各グループのミッションから抜け漏れている領域や施策についても、それぞれが積極的に提案し担っていく必要があります。
LIFULLにはもともと「利他主義」という社是があって、基本的にいろんな人と手を取り合い、全体をハッピーにしようという雰囲気があるので、グループ長同士のやり取りも比較的うまくできているように思います。
――グループ間の連携は、どのようなメリットを生み出しているのでしょうか。
たとえばテレビCMが放映されるタイミングでは、デジタル広告の効果が伸びることがあります。それに応じて予算をスムーズに調整するには、テレビCMを担当するグループとの連携や把握が欠かせません。また、最近はダイレクトレスポンス領域とブランディング領域の中間に位置するような媒体施策も増えているので、それをどのグループが主導し推進すべきかといったことも都度話し合って決めています。
――マーケティング部以外との連携についてはいかがですか?
マーケティング部以外では、営業部、プロダクト部、サービス開発部、それにエンジニアが在籍する開発部などがあります。先ほどお伝えした通り、LIFULL HOME'Sには賃貸住宅や分譲マンション、注文住宅など様々な事業があり、デジタルマーケティンググループではマーケターが各事業を分担しています。
当社ではそれぞれの事業を担当している各部門の担当者が集まって定期的に会議を開きます。これは、各事業が目標を達成するために営業やエンジニア、マーケティング担当者が話合う場を設けるためです。
――別部門(別職能)との連携にはどのような意義があるのですか?
たとえばポータルサイトを運営するプロダクト部が実施する施策と、デジタルマーケティンググループが実施する施策は、CVRなどの数値に対して相互に影響を与えます。
また、営業部からは、マーケティングが営業に与えた影響やお客様の意見などの情報を聞かせてもらいますし、逆に営業部が私たちに、マーケティングに関する依頼をしてくることもある。やはり互いに影響し合っていますよね。
――別部門との連携における課題や、それを乗り越える方法があれば教えてください。
比較的良好なコミュニケーションができていると思いますが、個別の課題は都度出てきますね。これはあくまで一例ですが、プロダクト側のグループが対応すべきか、マーケティング側のグループが対応すべきか線引きが微妙な仕事があり、双方の意向があまりうまくかみ合わないということも時としてあります。そうした課題については基本的には担当部署同士で話し合い解決していきますが、場合によっては事業部長が中心となって話し合い、優先順位や役割分担を整えるようにしています。
CDPの活用により、社内のコミュニケーションロスを解決
――御社ではポストcookieの対応としてCDPを活用されていると伺っています。インハウス体制が整っているからこそCDPをスムーズに活用できているかと思いますが、まずはCDPの経緯について教えていただけますか?
全社で導入決定したのは3年前、デジタルマーケティンググループで本格的にCDPを導入したのは2年ほど前からです。導入の目的は、統合データ運用の取り組みですね。ポータルサイトの運営においては、各部門がそれぞれの観点から施策を実施することができますが、やはり最終的に重要なのは「ユーザーがどんな体験を求めているか」。一人ひとりのユーザーニーズに寄り添う手段として、ユーザーのデータを統合し、一つのツールで分析することが重要だと思います。
――デジタルマーケティンググループでは、CDPをどのように活用されているのですか?
サイト内でのユーザーアクションをリスト化し、施策立案や広告配信につなげています。サイト内のユーザー分析は、従来使っていたGoogleアナリティクスでも可能でしたが、そもそもデータ定義に関してCDPを導入する以前は、広告の管理画面のコンバージョンを見ている部署もあれば、Googleアナリティクスで見ている部署もあるといったように統一されていませんでした。
CDPを導入することで関係者が同じデータを同じ定義で見られるようになり、タッチポイントの異なるユーザーごとにクロスチャネルで動きを捉えて施策推進出来るようになったことが一番のメリットではないかと思います。
インハウスマーケターならではの「深度」を追求してほしい
――遠藤様は採用にも携わっていらっしゃるとのことですが、どのようなポイントで採用可否を判断されていますか?
私はマーケターの中途採用の一次面接に携わっていますが、重視しているのは次の3つのポイントです。一つ目はデジタルマーケティングの基本的なスキルセット。二つ目は仮説構築力。そして三つ目は、一緒に働きたいと思えるかどうかという人柄の部分ですね。
――インハウスの広告運用者として必要な素質・スキルはどのようなものだとお考えですか?
大きく二つあると思います。
一つ目は「自走できる力」。
代理店と一緒にマーケティングをしていると、代理店側が立てた仮説や提案に対してジャッジを下すことがメインになりがちですが、インハウスマーケティングでは目標や目的に対して、自分自身で仮説を構築し、施策立案やシミュレーションをし、実行しなければいけません。そのため、待ちの姿勢ではなく、自身で課題を見つけ、それに自らアプローチできる自走の力が重要になってきます。
二つ目は、他領域とコミュニケーションする力。
当社のマーケターは他部署との連携が必須なので、自分のミッションだけではなく、全体最適を考えて動けることが重要です。また、「利他主義」のもと、利他の心をもって助け合いができる方かどうかという点も重視して採用活動を行っています。
――最後に、インハウスでの広告運用に悩みを抱えているマーケターに向けてアドバイスをお願いします。
私自身、代理店と事業会社の両方を経験していて、それぞれに楽しさややりがいがあると思うのですが、やはり事業会社は面白いなと思っています。
代理店時代によく悩んでいたのが、クライアントからすべてのデータを開示いただけないこと。マーケターに一番重要なのは、仮説構築力だと思っています。ただ、仮説を構築しても、データがなければ裏付けができず、支援の幅が狭まるという限界を感じていました。それがインハウスマーケターになってからは、すべてのデータに比較的すぐにアクセスできるようになりました。何かをやろうとしたときに、仮説を裏付けるために必要なデータが手元にあるのはすごくありがたいですね。代理店ではいろんなクライアントと接し、幅広い経験を積めましたが、事業会社ではマーケティングの「深度」を追求できるところが面白いと感じています。社内での連携などが難しいこともあると思いますが、自由にデータを分析し、自分の考えた最善の施策を実行できる環境は事業会社ならでは。そこに面白さを見出せるインハウスマーケターが増えたらいいなと願っています。
● 編集後記
デジタルマーケティングのインハウス化を目指す企業は増えつつありますが、自社でノウハウを確立するのは簡単ではありません。今回、遠藤さんからお話を伺って印象的だったのは、社内の連携を重視する事業会社ならではの姿勢でした。わずか6名で「LIFULL HOME'S」のデジタルマーケティングを実践できているのも、LIFULLが築き上げてきたコミュニケーション豊かなカルチャーあってこそ。遠藤さんの言葉の端々に、仲間と共に自社サービスを広めていくインハウスマーケターのやりがいがにじみ出ているように思われました。