マーケターに聞いてみよう!
Vol.6_損害保険ジャパン株式会社 関口 憲義さん

マーケターとして活躍されているみなさまに、ご自身の経歴やマーケティングに携わることになったきっかけ、お仕事をするうえで大切にしていることなどを語っていただく『インタビュー企画』。

第6回目は、損害保険会社大手の損害保険ジャパン株式会社 関口さんにお話しを伺っていきます。


関口 憲義さん
損害保険ジャパン株式会社
執行役員待遇 マーケティング部長


1988年、大手広告代理店に入社後、マーケティングの実務畑を歩み、大手自動車会社、大手電機メーカー、大手通信キャリア、外資系トイレタリー会社などのマーケティング・コンサルティング、ブランディング、新規事業戦略立案に関わる。ノースカロライナ大学チャペルヒル校MBA修了。2014年11月1日よりボルボ・カー・ジャパン株式会社に入社、2021年1月1日より損害保険ジャパン株式会社に入社、現職。
専門はマーケティング、ブランディング、CSR/CSV。


「挑戦する気持ち」で常に切り拓いてきた、マーケティングのプロとしてのプライド

ーまずはご自身のご経歴を教えてください。

新卒で広告代理店に入社し、そこからずっとマーケティングの仕事をしています。広告代理店では26年過ごし、その後ご縁があってボルボ・カー・ジャパン株式会社のマーケティング責任者を6年強担当しました。2021年1月に今おります損害保険ジャパン株式会社に入社し、マーケティングの責任者を担当しています。

それぞれのタイミングをご説明しますと、
実は2001年から2年間、企業派遣でアメリカのビジネススクールに通っていました。そこで日本人でほぼ同じ年代・家族構成の方と出会い、とても仲良くなりました。ビジネススクール卒業後もお付き合いをしていたんですが、その方は海外で働いていたんですね。あるタイミングで日本に帰ってきて、自動車輸入メーカーの日本支社の責任者をやるから『一緒にやらないか、一緒にこの10年をかけよう』と声をかけてもらったんです。
その時私は50歳くらいだったんですが、初めての領域への挑戦でした。盟友に声をかけてもらったことで「これはやるしかない、飛び込んでみよう!」と決めました。
二人三脚で一生懸命立て直しをして、とても良い実績を残すことができました。

良い実績だったからこそなのか、彼は10年を待たずに先に卒業してしまったんです。一緒にやろう、という相方がいなくなってどうしようかと思っていたところ、いろんなお話を頂いた中で今の損保ジャパンにお世話になることにしました。

実は損保ジャパンに決める前にいくつかの会社さんとのお話もあったんですが、「今まで組織として存在していなかったマーケティング組織の立ち上げに携われること」「マーケターとしての今後を考えた時に自動車以外の領域でもチャレンジしたい」ということから決めたという経緯があります。

マーケターの方の中には、キャリア形成で悩んでいる方もいらっしゃるんじゃないでしょうか。日本の企業は部署異動によっていろんな経験を積んで成長していくことを「是」としている場合が多いと思います。それ故に、マーケティング一筋というキャリアを歩みにくいかもしれません。ただ、ようやく最近、私が歩んだボルボ・カー・ジャパン株式会社や今の損保ジャパンのように、マーケターや専門職のプロフェッショナルを外から迎えて組織を作っていくことも増えてきました。これは日系企業にとって変革の始まりかなと感じています。
日系企業でもマーケターとして、またはその他の専門職やプロフェッショナルとして、その道を歩むことができる時代がようやく訪れてきたのかもしれません。
そういった意味では、今マーケティングに携わっていらっしゃる方にとって、とても良い時期がきたように感じています。

「お客様を第一に」データ活用で”本当に”お客様に寄り添うサービス作りのために。

ー続いて、御社のサービス/関口さんが関わっているサービスについて教えてください。

現在は、損保ジャパンの各サービスのマーケティングを主に担当しています。グループとしてのブランディングは、SOMPOホールディングスや損保ジャパンの広報部門と連携しながら対応しています。

SOMPOホールディングス自体とても大きな会社でサービスも沢山あるので、担当毎に分担してマーケティング活動をしていますが、私の担当業務は事業会社「損保ジャパン」の部分ですね。マーケティング部は現在50名強、そのうち3分の1程度が中途入社した、マーケティング領域やデジタル領域などのいわゆるプロフェッショナル(キャリア採用)です。

損保ジャパンの各サービスは主に保険代理店さんに販売頂いておりまして、当社の保険代理店は全国は約4万8,000店舗(2021年3月末時点)もあるんです。日本のコンビニエンスストアが約5万6000店舗(2020年末時点/日本フランチャイズチェーン協会まとめより)と拮抗する数値であることを考えると、非常に多いということがお分かり頂けるかと思います。
これだけ店舗数があるだけでなく、さらにショッピングモール内にあったり路面店があったり、その店舗の運営形態にも結構幅があるんです。そうすると、一つの施策をするとしても多くの方の手を経ることになり、どうしても浸透までには時間がかかってしまいます。
色々な施策を試している状況ではありますが、なかなかスピーディーに、とはいかないところが難しいところでしょうか。

ー御社のマーケティング活動における特徴はありますか?

2022年4月に社長が交代し、新社長である白川の「生活者ドリブン(お客様を第一に考えていこう)」という方針がまさに私たちのマーケティング活動に大きな影響を与えています。

我々がご提供している損害保険というサービス自体、元々「互助の精神」や「人助け」とか「困っているときにみんなで助け合おう」という姿勢から始まっています。その影響なのか、常々「誰かの役に立ちたい」と思っている社員が本当に多いんです。
それを突き詰めていくと、お客様のことを大切に考えて理解することから始まるのかなと感じています。
そこから、お客様と接点を増やし、そこで得られたデータをもとにDXやAI技術を用いてお客様に還元する施策を計画しており、これこそが損保ジャパンの特徴ではないでしょうか。

と言いながら、代理店販売というビジネスモデル上、実はこれまであまりお客様と直接の接点作りに積極的ではなかったんです。
しかし、2021年4月1日にマーケティング部という組織を立ち上げたことで『マーケティングに本腰を入れていくぞ』という意思表示が社内外共にできたかなと感じています。

「複数の価値観」と一人ひとりのストーリーを見つめて、オーダーメイドなマーケティングを目指したい

ーご自身がマーケティングに関わる上で、大切にしていることは何ですか?

「複線的な価値観」を持つように気をつけています。

例えば、私の年代ですと、新聞を紙で読んだり、ラジオを聞いたり、紙の雑誌を定期的に買ったり、いわゆる昔の4マス媒体(新聞・雑誌・ラジオ・テレビ)をダイレクトに経験しているんですよね。
今ではスマートフォンで新聞の電子版を読んだりコンテンツを見ることも出来ますが、旧来から残っている手法、そういったいわゆるアナログの名残がある手法への手触り感があるかどうか、というのはマーケティングに携わる上で大きなことだと感じます。

どういうことかと言いますと、これらの媒体を本当に使いこなすことができるのは、『リアルに使ったことがある方』だけじゃないかと思うんです。
単にサービスを知っているのと、それを使ったことがあって特徴やメリットデメリットをユーザー視点で理解できているのとでは、施策を考えていく上での深さやリアリティは当然異なりますよね。

ですので、逆に私の年代が避けてしまいがちな今の10代や20代の方がよくお使いのSNSやデジタル上の各種サービスについても、できるだけ偏見なく日常的に使うようにしています。仕事中でもいつもスマホをいじっているので、傍から見るとサボっているように見えるかもしれませんね。自分としては関連する情報を収集しているのですが(笑)。
体験してみないと本質は分からないと思うんです。

また、4マス媒体だけではなくキャリアや学歴についても同じことが言えます。
例えば、4年制の大学を卒業しているのが”普通”でしょうか。「マスマーケティング」という観点から言えば、むしろマイノリティだとは言えないでしょうか?

この複線的な価値観をキャリアという軸で話す時によく自分のチームメンバーに伝えているのが「小学校の時の友達を大事にしよう」ということです。
これも一つの例えですが、小学校時代の仲間って本当にいろんな道を歩んでいるんですよね。
東京にいらして一般企業に勤める方もいますし、地元で市役所に勤めたり、地場の企業に就職する方もいる。家業を継ぐ方や、自衛隊などの専門職に就く方もいるでしょう。
学歴も同様で、様々なバリエーションがあり得ます。大切にしていることも違うはずです。こういった、自分の周囲にいる準拠集団以外の価値観が存在することを知っていること、世界の広さを手触りを持って感じておくことが、マーケティングをしていく上での本当のお客様理解に繋がると感じています。

全てのキャリアや学歴を経験するのは難しいかもしれませんが、できるだけそれぞれに近い立場・経験をしてみてこそ、お客様に寄り添うことができると思います。

ーご自身が目指すマーケティングの姿について教えてください。

お客様一人ひとりのストーリーをしっかりと見ていく、ということでしょうか。

よくマーケティングを語る上で話題になる「マーケティングファネル」、認知→理解→購入意向に繋がっていく、という考え方のことですが、私はあまり好きではないんです。
もちろん数字を把握することは大切ですし、仕事なのでそういった目標を追う必要はあるんですが、お客様の行動はこのファネル通りなのかな?と疑問に思うんです。
例えば私はコーヒーが大好きでよく飲むんですが、たまに無性にトマトジュースが飲みたくなる時もある。でもこの「無性にトマトジュースが飲みたい」ってマーケティングファネルだと想定できないんですよね。
それよりも、お客様のタイムラインを追っていく「カスタマージャーニー」の考え方の方が、私のイメージに近いのかもしれません。
しかも今はデジタル技術で、細かくデータをとるための手法も実現できていますよね。そういったデータに、さらにAIを導入するなどしてうまく活用していけたら良いなと考えています。

お客様一人ひとりの行動をみて、ストーリーをそれぞれに予測して、本当に「あなたのためだけのお勧め」をお伝えできるような、オーダーメイドのマーケティングを目指していきたいなと思います。

ー読者のみなさまへの一言

「自分で決めましょう」ということです。

例えば、みなさんが洋服を買おうとしてセレクトショップに行ったとします。
そこでいくつか試着して、店員さんに「お似合いですよ」「今はこういうのが流行りですよ」と言われて、そのまま購入するとします。
そうすると、もしその服が気に入らなくなった時に、自分のせいにはならないんですよね。
「あいつのせい」と言うと言葉は強いかもしれませんが、他人に言われたことを根拠に決めてしまうと、自分の責任として認識できないんです。

自分が納得して自分で踏み切れるようにするには、「自分で決める」こと。
もちろん、色々な方のお話を聞いたり、参考にしたいから相談したりというのはどんどんやった方がいいと思います。
ですが、最後はぜひ自分で決めて頂きたいなと思います。大切なことであれば、より一層自分での落とし込み・納得が大切です。

あともう一つお伝えしておきましょう。
私には好きな言葉があります。アメリカのゼネラル・エレクトリック社の最高経営責任者を務め、その手腕から”伝説の経営者”と呼ばれたジャック・ウェルチの言葉で
「Change before you have to.」(変革せよ。変革を迫られる前に。)

変わらなきゃいけなくなる前に自分から変わりましょう、自分からチャレンジをしましょう、という意味です。
「自分から変わる・決める」には悩むこともあると思いますが、ぜひどんどんチャレンジを重ねていってみて頂きたいなと思います。アンコントローラブルなことで迷うのは仕方がないですが、自分のことは自分で決められますからね。
自分で決めて、どんどんチャレンジをしていくことで、自分が納得できる道を見つけて歩んでいくことができますよ。

ー取材後記

今回は損保ジャパンの関口さんにインタビューさせて頂きました。

驚くくらいに潔い決断を繰り返され、キャリアを綴り続けてきた関口さん。その土台には、常に変化を追い求めるフレッシュな感性を感じました。
成功し続けると、新たなチャレンジへの賭けに不安を抱いて二の足を踏んでしまいがちです。その自分への恐れに打ち勝つ心意気こそが、一人ひとりのお客様に寄り添うための変革を生み出していらっしゃるのだと思います。

「Change before you have to.」(変革せよ。変革を迫られる前に。)
ぜひみなさんも、自ら進んで変革することを楽しんで過ごしてみてはいかがでしょうか。

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