マーケターとして活躍されているみなさまに、ご自身の経歴やマーケティングに携わることになったきっかけ、お仕事をするうえで大切にしていることなどを語っていただく『インタビュー企画』。
第17回目は、フードデリバリー業界を牽引する企業 出前館の三代さんにお話を伺っていきます。
三代 征弘さん
株式会社出前館
マーケティングコミュニケーション本部長/執行役員
大手リテール、メーカーをはじめ飲食メディアなど、複数社でEC・店舗、会員組織のマーケティング・プロモーション、CRM・データ分析業務などを経験。 2018年よりLINE株式会社にてフードデリバリー・テイクアウトサービスの運営業務に従事し、2020年より株式会社出前館にてマーケティング・広報PRなどの領域全般を担当。
マーケティング×"好き"軸で選んだキャリア。その中で身につけたたくさんのスキル
ーまずはご自身のご経歴を教えてください。
キャリアのスタートは音楽業界のリテール企業で、学生時代から広告やオンラインマーケティングに興味を持っていたこともあり、EC部門のマーケティング担当として入社しました。5年ほど勤務した中で、最初は広告領域を中心に、代理店と一緒に数々のデジタル施策を実施し、以降はメールマーケティング、CRMなども経験し、マーケティングの基礎を学ばせて頂きました。
その後、オフラインを絡めた領域にもチャレンジしたいと思い、セレクトショップ系のアパレル企業に転職しました。
ちょうどその頃は、ECでは服が売れないと言われていた時期から、ZOZOTOWNの成長によって世間のECビジネス自体が急拡大し始めたタイミングで、元々音楽やファッションが好きだったので、自分の”好き”軸にも絡めての仕事選びだったように感じています。
複数のブランド、実店舗を持っていることや、店舗とECを連携してユーザーのロイヤリティを高めていくという会社方針に共感し、まさに当時の自分がやりたい領域とマッチしていたため転職を決めたという経緯がありました。
入社後すぐに自社ECの強化、成長拡大を担当し、マーケティング活用できるデータプラットフォームの構築や、コミュニケーションシナリオの設計、MA導入など、ECが実店舗の受け皿となるよう徹底的にリテンション向上の環境構築、施策実行に尽力しました。
また店舗とECの連動企画、NPS導入、VOCの収集体制構築など顧客満足度向上のためマーケティング領域を超えて様々な取り組みを行いました。
EC全体でもVOCを活用して商品ラインナップ、在庫の拡充、UI/UX向上などスピード感を持って実行し、結果として入社前から比較するとEC売上高は10倍近く拡大し、サービスの大きな成長を経験することができました。
この2社目の経験が、自分の中では大きな転機になっています。それまで定量的な情報や数字に重きをおくタイプだったのですが、ユーザーリサーチやオフラインを絡めた施策経験から、潜在的なニーズが隠れていることの多い定性的な情報にも目を向けられるようになりました。実店舗でお客様の行動導線を観察したり、実際にお声がけしてインタビューさせて頂くような案件も経験し、店舗の立地や内観・外観デザインなども含めたブランド・エクイティ(ブランドが持つ資産価値)を考えるきっかけにもなりました。
その後、もう一つの自身の”好き”領域から「食」のビジネスを展開する飲食系webメディアの企業にデータアナリストとして転職し、当時マーケターのスキルで必要性が高まっていたユーザー分析、SQLなどのデータハンドリングスキルを短期間で集中的に身に付けました。
そして直近の経歴になりますが、再び事業・サービス運営に近いところで業務したいという思いから、LINE社の中でO2O領域を管掌する部門で、フードデリバリーサービスのマーケティング担当として転職し、2020年のLINEと出前館の資本業務提携強化のタイミングで出前館のマーケティング本部の責任者に就任し、今に至ります。
フードデリバリー市場に、新たな風を。
サービスの拡充と共に、"お食事タイム"以外にも活用できる仕組みを構築したい。
ー続いて、御社のサービス/三代さんが関わっているサービスについて教えてください。
フードデリバリーサービス 出前館のマーケティング・広報PR全般を管掌しています。
基本的には情報発信による会社・サービスの認知・集客向上がメイン業務となっており、マーケティング組織では、さらにコスト効率を守りながらユーザーの獲得育成までを担当し、広報PR組織では、逆にそれをコスト掛けずに行うことを役割としています。
そのため広報PRでは、通常の情報発信業務以外にも、日頃から様々なメディアや自治体、グループなどとのリレーション構築も行っております。そのほか加盟店や配達員に関連する案件は、管掌する社内の各本部と連携して取り組んでいる状況です。
ー御社のマーケティング活動における特徴はありますか?
これまでの振り返りとして、現組織体制がスタートした2020年当時は、サービス認知率が50%程度しかなく、まずは知ってもらわないと利用時の選択肢にも入らないため、テレビCMを活用して短期間で認知向上を狙いました。その後、シェア拡大のため関東圏で集中的にユーザー、加盟店、配達員を獲得する大規模なキャンペーンを実行してきました。これらを実現するためにマスを含めたオフライン、オンライン施策の企画実行を本部内でスピーディーに完結できる体制をとっているのが特徴といえます。
またフードデリバリーサービスの特徴としては「ユーザー」「配達員」「加盟店」という3つの軸があり、この構成がエリア別に異なります。エリアによって配達員の数や、飲食店が異なるため、提供できる商品にも違いがあったり、人口密度によって「食」に関するユーザーのライフスタイルも異なるため、できるだけ細分化し個別最適化したプロモーションをしていく必要があります。
それ以外にも「食」の特性上、どうしてもランチとディナー帯に利用が集中する傾向が強いため、それ以外の時間帯での利用機会を創出していくことが今後のサービス拡大の重要なポイントと考えており、マーケティング施策も柔軟に対応していきたいと考えております。
マーケティングは、あらゆる手段でトレンドや情報を掴んでおくことが大切。"量"から"質"への転換で、もっと利用してもらえるサービスへ
ー ご自身がマーケティングに関わる上で、大切にしていることは何ですか?
大切にしていることは3つあります。
まずは、世の中のトレンドや業界、社内外の動きを把握して、常にあらゆる手段で情報収集をしています。マーケティング部門は、常に”次”や”この先何をしていくか”を考えるのが役割だと思っております。さらに会社のコストでどうやって最大の効果を出していくかがとても大切です。
不確定な状況でも意思決定を求められるケースが多いため、あらゆる情報を持っておくことで、状況に応じて予測の精度も上がりますし判断も早くなります。
二つ目は、相手の立場に立って考えることです。
これは施策のターゲットであるユーザーの立場で考えるなら当たり前のことですが、どちらかというと普段の取り組みで関わるすべての人の立場や思考、言動など、一度相手の立場にたって考えて、自分の中で常に整理しておくようにしています。
これを行うと状況把握や、物事を判断するスピード、コミュニケーション効率が良くなるので、昔から仕事する上で大切にしております。
最後は、施策において目的と評価、誰に対して何をどのようにアプローチするかを明確にすることを心掛けています。ここが曖昧な状態で案件を進めると、あとの振り返りができなくなり、改善や次に繋げることができなくなるので注意するようにしています。
これらを習慣づけておくと、複数の案件をスムーズに進めることができたり、早く判断に持ち込むことができるようになると考えています。
いずれも単純なことですが、大切なことって実はシンプルなんじゃないかなと思います。
ー ご自身が目指すマーケティングの姿について教えてください。
先ほどお話しした通り直近2年ほどは、短期間でサービス規模を拡大するために施策やアクションをどれだけ多くアウトプットできるかの「量」の勝負だったと感じております。
今後は一つ一つの施策の「質」の向上に取り組んでいくほか、サービス利用時のユーザー体験を如何にして上げて行くかが、継続利用いただくために重要なポイントとなるため、マーケティング領域以外の社内連携も含めて柔軟に対応していきたいと考えております。
最後に個人的には、出前館のサービスを更に多くの方にご利用いただくために何が必要なのかをもっと考えていきたいです。
毎月実施しているユーザーリサーチやアンケートなどで色々な課題が出てきています。
例えば、出前館をご利用されない方からは「利用料が高い」「タイミングがない」などかなりサービスの根本的なご意見を頂くことも多いです。
こういったご意見・ご意向に対して、料金に見合うサービス価値を創り提供する、「食」以外も対応し利用タイミングを創出するなどは考えられるため、ユーザーコミュニケーションを考え、少しずつでもこういった価値観を変えていけるといいなと思います。
海外に目を向けると、日本よりも圧倒的にデリバリーサービスの利用率が高いので、そういった事例も参考にしながら、もっとサービスを一般化できるような発信、取り組みを行っていきたいです。
周りで起こっていることに興味を持ち、調べ、考えること。
それをどんどんアクションに移していくことでしか、精度はあがらない。
ー読者のみなさまへの一言
マーケティングでのキャリアを考えておられる方は、まずは「世の中の状況や人に興味を持つ」ことを大切にして欲しいなと思います。
日常生活は様々なメディアや、それを使ったプロモーションに溢れていますので、気になったものは、どういった目的で何の成果を求めているのか、発信した人の意図はなんなのかなど考えたり、その人や企業について調べたりすると良いと思います。
普段から色んなものを見て、調べて、考えている人がマーケティングには向いているんじゃないでしょうか。
もう一つは「すぐにアクションを取っていくこと」です。
これはマーケティングに限った話ではないですが、フレームワークを使って分析したり、戦略を考えたりすることはベーススキルとしては大切ですが、やる事を考えたらどんどんアクションに移して行って欲しいです。
アクションして成果を出すのが目的であって、フレームワークやツールなどはあくまで情報や状況を整理したり、分析するなどの手段でしかありません。いつの間にか”手段”を使うことが”目的”になってしまいアクションがゼロだと、何もしてないのと変わらないです。
なるべくいろんな角度から沢山のアイデアを出して、どんどんアクションに移していく。その中で上手くいったことは継続し、そうでないものは改善したり早い段階でやめていけば良いと思います。実務においてはすべてが想定通りいくケースは少ないので、アクションしてみて施策精度をアジャストしていく方が成果に繋がりやすいと思います。
私自身もフレームワークや分析などにハマってしまった時期がありますが、これは違うなと思い、アクションや成果を出すことのバランスを意識するようになった経験があります。
ぜひ皆さんも毎日の業務や生活の中で意識してみてください。
ー取材後記
今回は、フードデリバリー業界を牽引する企業:出前館の三代さんにインタビューさせて頂きました。
マーケティングを軸に、ご自身の”好き”をポイントとして様々なご経歴を重ねてきた三代さん。その根底には「好きなものでないと、のめり込めない」という非常にポジティブな決断がありました。好きを軸にするからこそ、強いこと。
だから、マーケティングの土台となる”あらゆる情報収集”にも拍車がかかるのかもしれませんね。
日々のお仕事の中でも、少しでもご自身の”好き”を織り交ぜてみると気持ちの動き方や行動への落としこみ精度が変わってくるのかもしれません。
みなさんも、ぜひ一度ご自身の”好き”を振り返ってみてはいかがでしょうか。