マーケターに聞いてみよう!
Vol.18_青山商事株式会社 平松 葉月さん

マーケターとして活躍されているみなさまに、ご自身の経歴やマーケティングに携わることになったきっかけ、お仕事をするうえで大切にしていることなどを語っていただく『インタビュー企画』。

第18回目は、ビジネスウェア専門店トップ企業 青山商事の平松さんにお話を伺っていきます。


平松 葉月さん
青山商事株式会社
リブランディング推進室


グラフィックデザイナーから、マーケターへの転身。経営を意識した仕事を求めて選んだキャリア

ーまずはご自身のご経歴を教えてください。

元々グラフィックデザイナーからキャリアを始めました。通販カタログをデザインしていたのですが、その商品の何が売れているのかが気になって、クライアントや会社の人に聞いていました。でも答えてもらえることは少なくて。そこで「デザインをやるにしてももっと企画の上流の方に行かないと、売上などをベースにしたアウトプットは作れないんだ」と気付かされました。そういう流れの中で仕事ができる場所にいきたいと思い、株式会社ラウンドワンというエンターテインメントの会社に転職しました。
ラウンドワンには9年ほど在籍し、アートディレクターから始まり、広告宣伝、販促プロモーション、クリエイティブ、広報などを兼任するようなお仕事をしました。その中で、若者向けのデジタル施策が必要、でもボードメンバーの意志も強くなかなか実行できないと感じることがあり、2度目の転職をしました。
その次は、家電メーカーのアクア株式会社で販促プロモーション、続いてらーめんチェーンへ転職し、マーケティングと経営戦略の統合での業績回復を目指し、実際に実現させることができました。
その後、『古い体質の企業を今の時代にフィットさせ業績を回復させる』という自身へのミッションのもと、紳士服業界のトップである青山商事に転職し、今に至ります。

色んな会社を転々としているように見えるかもしれませんが、『BtoCビジネスで、直営店舗などお客様との直接の接点を持っている』『1業界に1回しか行かない』という軸を持って転職しています。

日本のビジネスシーンを象徴する”スーツ”。そのリーディングカンパニーだからこそ、チャレンジし続け、変革を起こしていきたい。

ー続いて、御社のサービス/平松さんが関わっているサービスについて教えてください。

青山商事の主軸はビジネスウェア事業であり、その中でも売上をほぼ占めているのが『洋服の青山』ブランドですが、時代と共にスーツをビジネスシーンで着用する方が少なくなっている傾向があるのも事実です。スーツとビジネスウェアで第一想起していただける状態を目指す・維持するのはもちろん大きな目標の一つですが、”紳士服専門店”という枠組みからビジネスパーソンのNo.1サポーターとしてのブランドへと変革していくチャレンジにトライしています。

御社のマーケティング活動における特徴はありますか?

ブランディングという軸で、マーケティング関連部署を横串で束ねて、情報を共有するようにしています。
青山商事は組織としても大きいですし、『洋服の青山』は歴史もあります。そのため、マーケティングに関わる業務が色々な部署に点在しているので、それぞれの施策が独り歩きしがちです。でも、それはお客様にとっては一貫性のない情報発信になってしまって良くないですよね。そういったズレを整えながら、各施策や担当者が一つの方向性を見据えて動けるようなサポートをしています。

もう一つは、売上のボリュームが年間を通じて一定ではなく一時期に集中していることでしょうか。スーツに限って言うとそこまで頻繁に購入されるものではないですし、クールビズなどの定着に伴い、購入される時期が秋から春に集中します。もちろん夏季用のスーツやビジネスカジュアルの冷涼商品なども取り扱っていますが、大きな影響を与えるまでにはなっていないという状況ですね。
ただ、一方でコロナの状況が落ち着いてきた現在、これまでの2年間あまりビジネスウェアを購入しなかった方が「仕事の時に何を着たらいいんだろう?」とお悩みになっているケースがあります。青山ではこういった状況に先駆けて、社外の方々と共創コミュニティを立ち上げ、課題に対する議論を重ねてきました。
共創コミュニティを立ち上げる時に設定したミッションが『ビジネスウエア3.0を定義する』です。『1.0』は高度経済成長期に働く人がほぼスーツを着用していた時代、『2.0』はCO2削減のために政府から提唱されたクールビズに伴い浸透したビジネスカジュアル、とした時に、『3.0』はコロナ禍を経て、ビジネスパーソンと共に定義していく装いです。これまでに、テレワーカーが考えた”テレワーカーのための専用ジャケット”を共創企画として商品化しています。『洋服の青山』を単に商品を販売するブランドではなく、お客さまと一緒に価値を創造するブランドにしていきたいですね。

"商売そのもの"に関わるから意識できる。中長期を見据えた顧客体験を提供することがマーケターの役割。

ご自身がマーケティングに関わる上で、大切にしていることは何ですか?

人によってマーケティングの解釈はそれぞれ違うのではないかと思うのですが、私は「商売そのもの」だと思っています
どんな業種でも一緒だと思いますが、『どのような人たちに求められるものを提供するのか』ということを必ず考えるようにしています。求められる商品もサービスも時代と共に変化し続けているので、その変化に合わせて商品やサービスをアップデートし続けることによってお客さまへ価値を提供していくということを常に意識しています。

そのためにも、顧客に限らず、市場のお客様の消費行動や課題に感じていることなどまで、市場調査やヒアリングを実施します。今ご利用いただいているお客様を見るのはもちろん、これからどのような方にお客様になってもらいたいのか、そのお客様がどのような行動をしていて、どんな考え方なのか、徹底的に考え抜くことが必要だと思います。
例えばラウンドワンの場合、ある時、ボウリング場に来場する小学生が減っているというボウリング業界全体の課題が出てきました。小学生の時に来ないと、成長して中・高校生になっても大学生になっても来てもらえません。
可視化されている事象としては、『小学生がボウリング場に来ない』ということですが、小学生は大人に連れられて来場することがほとんどのため、小学生が大人に『ボウリングに連れて行ってほしい』と言ってもらうためにはどのような施策がいいのか?マーケティングで言うところの対象者は小学生ですが、小学生にアンケートを取っても、行ったことがないボウリング場に行きたいかどうかはわかりません。そこで、その当時小学生が興味を持つモノ(アニメや映画などのコンテンツや商品)、コト(イベントや体験)、状況(流行り)などをリサーチし、それをもとに企画をしたことがあります。

このように、たくさんいるお客様の中でも『今、誰にアプローチすることが中長期的な事業の継続と社会課題解決につながり、お客様から支持していただける企業になるのか?』という点はいつも意識してきました。
マーケティングを単なる広告宣伝活動や市場調査として捉えるのではなく、企業としてお客様とどのように向き合うのかというブランドの存在意義も含めた経営戦略の打ち手として、商品やサービスを作り上げ、お客様の手元に届くまでを実行していくことが、マーケターの役割だと思っています。

まさに、『商売そのもの』ですね。

チャレンジするときは"楽しいかどうか"を想像する。そして、成功確率を上げるための準備は万全に!

読者のみなさまへの一言

お伝えしたいことは2つあります。

まず1つは、「何か新しいことをやる時には、それが実現した後の世界を常に想像する」こと。

マーケティングに携わっていると、新しいことにチャレンジする機会がとても多いですよね。その中で、心が折れてしまったり苦しい時期もあると思います。でも、チャレンジのその先の世界、変わっていく未来の世界を想像してみると、心が折れずに戦えるかなと考えています。

私の人生のモットーは、「楽しく生きる」です。
自分が楽しく生きるためには、周りの人も楽しくならないといけない。自分の家族や部下はもちろん、社内や、取引先の人、お客様、その家族も、最終的には世の中みんながハッピーになることを考えていくと、チャレンジのその先の楽しさが想像できて、頑張れるじゃないですか。
ただ、もし実現した世界を想像しても自分が楽しくならなそうだなと感じるものはやらなくていいと思っています。楽しさが想像できない時は、自分ごとにしてチャレンジしていくことができないので、単なるやらされ仕事になってしまって、モチベーションが持てない状態になってしまいます。そうなってしまうと、自分にとっても会社にとってもいい結果にならないですよね。
特にコロナ禍を経た今は人々のライフスタイルや企業の在り方など、より一層新たなチャレンジが求められています。まだ誰も到達したことのない未踏の地に向けて探検隊が一斉に挑戦している感じでしょうか。もしかしたら何も見つからないかもしれないけど、宝石が見つかるかもしれない。その宝石がイメージできるのであれば、頑張ってもいいんじゃないかなと思います。

そしてもう1つは、そんな探検の時には「成功確率を上げるための”保険”と、失敗した時の”逃げ道”=プランBを準備しておく」ということです。
チャレンジをしながらも、備えは大切です。探検で一人で突撃して命を落としてしまっても、周りに誰もいなかったらいなくなったことすらわからない。それが一番不幸じゃないですか。探検である以上、最低限のリスクヘッジは不可欠です。

その一方で、失敗のリスクばかり意識してトライしないのは一番ダメだと思います。
保険とプランBはあくまでも成功確率を上げるためのもの。新しいチャレンジに自分ごととして前のめりな状態であることは最も必要な条件です。

「成功確率を上げるため」には、「対象となるお客様の市場での傾向をリサーチする」「人に聞く」をお勧めします。
「リサーチ」は、市場調査などで仮説を持った上で問いを立てていくことが必要ですが、世の中でどのような動向がありどう変化しているのかを知るためにとても重要な指標になります。これまでに起こっていることを傾向として参考にするつもりで、ぜひ活用してみてください。そして「人に聞く」のはとても大事。自分一人では気付けない視点や考え方を知ることで、課題解決の突破口が見えてきます。そのためには、社内にも社外にも仲間をいっぱい作った方がいいと思います。どんなことでも気軽に相談できるたくさんの仲間。きっとあなたをいろんな場面で助けてくれると思いますよ。


取材後記

今回はビジネスウェア専門店トップ企業青山商事の平松さんにインタビューさせて頂きました。

あらゆる業界でそれぞれの企業を牽引し続けてきた平松さん。常にチャレンジングに取り組む姿勢を持ち、前向きな思考を抱き続けていらっしゃるからこそ、初めて飛び込む業界でも成功をおさめていらっしゃるのでしょう。

朗らかな雰囲気からは想像もつかないような燃え盛る熱い想いは、まさに開拓者そのものです。

新たなものへのチャレンジが常に求められるマーケティングの世界では、ついつい初めてのことには躊躇してしまうもの。腹を決めて飛び込むのも、もちろん大切です。そしてその分、影ではしっかりとした”備え”を仕込んでおくことこそが、賢く・楽しくチャレンジを続けていくための秘訣なのではないでしょうか。
たくさんの仲間と、そして備えと共に、新たなチャレンジにも怯むことなく向き合っていきたいですね。

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