マーケターに聞いてみよう!
Vol.9_パイオニア株式会社 石戸 亮さん

マーケターとして活躍されているみなさまに、ご自身の経歴やマーケティングに携わることになったきっかけ、お仕事をするうえで大切にしていることなどを語っていただく『インタビュー企画』。

第9回目は、カーナビゲーションシステム、カーオーディオなど車載機器に特化した電機メーカー パイオニアの石戸さんにお話を伺っていきます。


石戸 亮さん
パイオニア株式会社
モビリティサービスカンパニー/Chief Customer Officer & Chief Marketing Officer

サイバーエージェント出身のスゴ腕ビジネスパーソン。Google JapanやSalesforceを経て、2020年、パイオニア、モビリティサービスカンパニーにジョイン。趣味はアウトドア。最近は「一人キャンプ」にはまっているとか。自然の静寂の中で一人過ごすことで、日々の精神の緊張をリセットして、仕事に臨む精気を養う。


現場経験で痛感した、経営視点で「エンジニアリング」と「ビジネス」をつなげるHUB(ハブ)になりたいという想い。

ーまずはご自身のご経歴を教えてください。
社会との関わりを考えると、大学生の時に同郷の友人と地元の柏でタウン情報のフリーペーパーを作っていた頃が始まりですね。
学生時代の友人と会話をしている際、「柏ってアパレルも美容院もお洒落な施設がたくさんある魅力的な街なのに、みんな原宿に行ってしまうよね」という話になったんです。それであれば、もっと魅力を知ってもらって柏にたくさんの人がきたらいいな、ということで街を紹介するフリーペーパーを作ることにしました。当時は理工学部で数学と物理に囲まれた環境でメディアを作る経験はしたことがなく、『街を知ってほしい!』という想いが溢れて地元の友人と奔走していました。

フリーペーパーが盛り上がって、それなりに売上げもありましたが、それでビジネスを回していこうとなるとやっぱり全然収支が合わなかったんです。いざ法人化するとなると、経営って大変なんだなと痛感しました。
この経験を通じて、経営への興味が沸いたこと、そして学校で学んでいたエンジニアリングとビジネスの間を繋げるような仕事がしたいな、と考えるようになりました。
就職活動の時期に入った時に、ちょうどそのタイミングで最年少上場で話題になっていたサイバーエージェントの藤田社長の本に出会いました。彼の元であれば経営を学べそうだなと直感し、新卒で広告代理店のサイバーエージェントに入社しました。

そこでは、SEOサービスとスマホマーケティングの領域で子会社2社を立ち上げ、役員も務めました。その後、インターネットビジネスの領域で海外も視野にいれた経験を積みたかったことと、最先端の技術で成功している会社で働きたいと思い、Google Japanに転職しました。
Google Japanでは、メディア&エンターテインメントのチームに所属して、広告製品全般やプラットフォームサービスを提供する仕事をしていました。Google Japanでも刺激的な仕事が多く、海外でのビジネスの立ち上げに関わることもできました。

その後は、AIを活用し、マーケティングデータを一元管理、活用までを一気通貫で実現する「Datorama」を開発したイスラエルの会社の日本法人立ち上げに参画しました。やはり事業の立ち上げとかイチからの土壌作りの日々はとても魅力的でした。そして数年後に会社がSalesforceに買収されたことで所属が変わり、買収後の統合を日本でリードし、2年後にパイオニアに転職、今に至ります。

これに並行する形で、Datoramaにいる頃から「肉バル×アヒージョ Trim 神谷町」という飲食店も運営しています。きっかけは、知人から「いい物件があるからここで店をやらないか」と突然LINEで連絡がきて...びっくりしますよね。
ただ、デジタルメインで無形商材中心の仕事をしてきている中で、直接お客様に関わりたい、いわゆる”手触り”感のある仕事をしたいと考えていた時期だったので、これはまさにお客様に直接関わるきっかけだなと感じました。お店の状況なども調べ、物件の将来性などから購入を決めました。

変革に向けた橋渡し。信頼の歴史とデータ&デジタルを武器に、「データカンパニー」へ

ー続いて、御社のサービス/石戸さんが関わっているサービスについて教えてください。
私自身、経営課題、現場課題、顧客課題といったニーズの高い課題をデジタル領域も活用して解決する、よろずやみたいな感覚で貢献したいと思って仕事してます。パイオニアはデータやデジタルを起点としたサービス企業への変革を推進しています。パイオニアのデジタル領域での取り組みには、貢献できる領域はできるだけ顔を出します。パイオニアはBtoBのSaaSビジネスがこの数年で非常に伸びています。けれども、まだまだ伸びしろのある領域なのでそれを伸ばす役割を担っています。
また、パイオニアは大量のデータを持っていますが、こちらも様々なかたちで事業化する可能性を秘めています。データを活用したサービスを開発・提供するデータカンパニーへの移行をサポートしています。

さらにコーポレートコミュニケーションやマーケティングコミュニケーション、採用なども変革することで会社の総合力が上がると思っています。加えて社内のITツールの導入や刷新にも関与し、情報システム部門と協力して社内システムのクラウド化も進めていきたいと考えています。

仕事の大半は、トランスレーション(翻訳・通訳)と実行を意識した活動を日々心掛けています。トップが思っていることと現場が感じていること、あるいはデジタル部門と事業部門の考え方の相違、顧客とプロダクト、そこの間に入って双方を円滑につなぐ役割だと私は思っています。立場や部門が違えば言葉の定義やロジックも異なるため、互いを理解しようとミーティングを重ねているのをたくさん見てきました。私自身もまだたくさん勉強中ですが、両方をブリッジする人材が間に入ることで変革はスムーズに進むと思っています。

ー御社のマーケティング活動における特徴はありますか?
1つ目は、横串で情報共有する場を設けていることですね。
私が入社してからですが、毎週月曜日に「MMM(Monday Morning Meeting)」というmtgを実施しています。
そこでは営業・マーケティング・カスタマーサクセスのメンバーがいて、それぞれの業務について10分くらいで 各部署のKPIやハイライトを発表していくんです。
それまでは部署や課毎にやや縦割りな活動や会議が多く、このmtgを実施するようになってから、部署間でお互いを理解できるようになり、徐々に繋がりがまわり始めた感じがありますね。
そして、月曜の朝にmtgをすることで、週のスタートがスピードアップしてきたなとも思います。
私は、営業日の週の初めと終わり(当社で言うと月曜日と金曜日)の過ごし方ってとても大切だと思っているんです。休み明けの月曜日はどうしても始動が遅くなりがちです。なんとなく朝仕事を始めて、ランチに行ってようやく本腰が入ってきたり、人によってはそれが火曜になっちゃうこともあると思うんですよね。若いころの私はそういう週が結構ありました(笑)。一方で金曜日は、その週中に片付けたいことをちゃんと終わらせられるか、うやむやにして週を跨いでしまうのかがポイントになると考えています。ある程度その週に区切りがついていたり、来週のイメージがついた状態で週末を〆られる方がメリハリがつくと思ってます。
そのことから、MMMについて毎週木曜日に連絡するようにしています。木曜日に次回のテーマをお知らせすると、来週のことを考えながら残りの金曜日を過ごすことができますし、来週のことに考えが巡るので月曜日の始動が早くなるんですよ。
前職時代はもっと細かくマネジメントしていた時期もありましたが、今は木曜日のアラートに抑えて、個々人で対応してもらうようにしています。仕事を生産的にすることもそうですが、今後は金曜にTGIF(Thank God It's Friday)なんかもやりたいな、と思ってます。前に勤めていた会社では毎週金曜にお酒や食事を振舞って、同僚と和気あいあい会話していました。時には家族も呼んだりして。そういった緩急が大事かなと思ってます。

もう一つは、マーケティングに限りませんが、会社として豊富なアセットを持っていることです。
実は、様々なプラットフォームやサービスのデータの元になっているモビリティデータには、パイオニアから提供しているものがたくさんあります。幅広くたくさんの方に使って頂いているサービスの根幹に関わっているということを考えると、それだけ安定的で強固なサービスなんですよね。
ただ一方で、例えば、Google mapのようなオープンプラットフォームなサービスをパイオニアでも作れたんじゃないかなと考えてしまうんです。アセットはありますので、そこにパイオニアのような規模の企業がIT企業やベンチャーのようなサービス開発に挑戦していく。そのようなサービスカンパニーへのシフトに少しでも貢献出来たら良いなと思っています。

『個』の理解から導く”チームパワー”の最大化。徹底的した仕組み作りに落とし込むプロデューサー視点。

ーご自身がマーケティングに関わる上で、大切にしていることは何ですか?
まず1つ目は、多様な『個』を理解してチームのパワーを最大化することです。
現在私が担当しているチームには、本当に幅広い方々がいます。年齢はもちろん、小さいお子様がいらっしゃる時短勤務の方、ずっとパイオニアで勤務している定年退職再雇用の方から外資やベンチャーからのキャリア入社の方まで、良い意味でバックグラウンドがバラバラなんです。
私よりもパイオニア歴が長い方も勿論多く、様々な想いもあるので、みなさんそれぞれのやり方があるからこそ、メッセージを打ち出す”強さ”のバランスを考えるようにしています。

2つ目は、そんなチームのパワーを最大化することで、私がいなくてもぐんぐんと回っていく組織作りをすることです。
マーケティングチームを始め、その周辺領域の組織作りにも関わっているのですが、属人化してしまった業務は制限ができてしまうと考えています。どうしても一人で分かる・できる業務には限りがありますからね。そうではなく、適切な場所に適切な方をアサインし、むしろ私自身が担当するよりも一層大きなバリューを構築していく。いわゆる”プロデューサー”なのかもしれません。
組織として、仕組みとして回る状態を作るからこそ、そこから生まれた余剰の時間や考える余地で、様々なチャレンジを生み出していくことができるんじゃないかと考えています。

「一次産業」×「自治体」×「アート」にも変革を。心に素直に、熱くなれるものを有機的に繋いでいく。

ーご自身が今後目指す姿について教えてください
マーケティングというより将来こうなっていたいな、という姿で言いますと、
「一次産業」「自治体」「アート」の3つに何かしら関わりたいと考えています。

「一次産業」は、元々親戚で農業に関わっている人が多く、以前から興味はあったんです。最近だとアグリテックのベンチャー企業もできたり注目されている領域ですし、
あとはTrimのお店でも推しているナチュラルワインにも関わるんですよね。実は夢の1つにぶどう畑を運営している方やワイン醸造者の方と契約をして、ぶどう畑をやってワインを作りたいと思っているんです。製造については中長期的に計画していますが、今年からその前段階のワインの販売ができるように酒類販売免許などの準備も進めているんですよ。インポートワインや国産ワインの取り扱いについても準備中です。

「自治体」への関わりで言うと、「一次産業」と深く繋がっている部分があります。農業などを軸に、その場所でできた商品が注目を浴びて地域が潤ったり町おこしに繋がることはよくありますよね。そしてもう一つ、地産地消のスタイルって素敵だなと思っています。
大切に育てられた食材が、新鮮な状態で、その空間の中で消費される。
ナチュラルワインを楽しんでいる中で見つけた素敵なオーベルジュがあるのですが、そこは、その土地で育ち作られた食材やワインをいただける空間なんです。素敵なものを知ることができて、地域にも貢献できる、そんな取り組みにはとても興味がありますね。

そして「アート」については、これまでの人生で一番分からない領域なんです。だからこそ興味を惹かれるし、知りたい。
トップクリエイターやアーティストの方々が求める世界って、凄いものだとは思うんですが、分からないんです。この領域を少しずつでも仕事とか生き方に混ぜていけると、想像を越えた反応が生まれるんじゃないかと感じています。
そして、「アート」に興味を惹かれているのはワインの影響もありますね。ワインのエチケット(ラベル)ってとてもアートに溢れていると思うんです。デザインとして素敵なものも多いですし、最近ですと小規模な醸造所ごとにそれぞれ異なるエチケットを発行していたり、ストーリーやバックグラウンドを妄想してしまうような深いものがたくさんあります。

ちょっと話が変わりますが、以前東北で震災がありましたよね。
ワイン作りをしている方のお一人で、宮城で『街を復興したい』と立ち上がった方がいらっしゃいました。オリジナルのワインを作って、そのメッセージを込めたエチケットのワインを拡散することで支援の輪を広げていこうという取り組みでした。街の復興は「自治体」を支えることに繋がりますし、当然ワイン作りは「一次産業」の支援と「アート」にも繋がります。
興味があるこの3つのキーワードは、実は”ワイン”を軸に繋がっているんです。

どこのパーツも何か自分として繋がりを持って有機的にやってるんじゃないかという気がしています。

ー読者のみなさまへの一言

“点”と”点”がいろいろ繋がってくるとマーケティングに生きてくるんじゃないかなと思うので、一つ一つを大切に、日々を過ごして欲しいなということです。
毎日のことを考えると、一つ一つは点でしかないかもしれません。ただ、その一つ一つが積み重なっていくと”面”になるんです。

私自身、これまでたくさんのマーケターの方とお仕事をする立場として、悩みや考えを聞いて、実践して失敗して、人の失敗も追体験にして、というのを繰り返してきたので、組織課題やマーケティングの処方箋が私の中に年々増えてきているように思えます。今の自分の組織創りやマーケティングの姿があるのは、これまでのたくさんの”点”を重ねたからなんですよね。
そういった意味で最近こういった有機的な繋がりを感じたのが、先ほどもお話した「一次産業」「自治体」「アート」と、「マーケティング」でした。
パッと見ると繋がりが無いキーワードに感じるんですが、ちゃんと繋がっていました。

毎日のいろんな”点”が、いつか土台となって繋がりを作ってくれると思いますので、その毎日の”点”に真摯に向き合って頂けたら嬉しいなと思います。


ー取材後記
今回は、カーナビゲーションシステム、カーオーディオなど車載機器に特化した電機メーカー、パイオニアの石戸さんにインタビューさせて頂きました。

マーケティングを始め、経営・現場・顧客課題が表出したあらゆる部門にまたがるお仕事を手掛ける石戸さん。まさに”よろずや”として課題解決の仕事をされていらっしゃいます。
大きな目的を成し遂げるためだからこそ、ご自身の軸を持ちながらも社内外あらゆる職種・部門の方々を巻き込み、そして徹底的な仕組み化に落とし込む。その姿は、世直しをしながら各地を巡る”必殺仕事人”と見紛うばかりです。

あらゆる方々を巻き込むことができるその信頼や人脈は、石戸さんの幅広いご経験や高い視座、そして日々の”点”の一つ一つを大切にする熱い想いがあるからこそ、形作られるのではないのではないでしょうか。

私たちも、毎日の”点”と”点”に、真摯に大切に向き合っていきたいですね。

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